矯正治療の抜歯について-①~③では抜歯をしなければならなくなるような場合について代表的な例をいくつかお話しました。
では抜歯をしなくても済む可能性が高いのはどのような場合でしょうか。
・でこぼこの量が少ない場合
・歯並びに隙間がある場合(空隙歯列弓)
・前歯の前方への突出が少ない場合
・上下顎の前後的位置のズレが少ない場合 ※1
・歯並びの横幅を拡大することで歯並び・噛み合わせを解消できる場合 ※2
・奥歯を後方へ移動することで歯並び・噛み合わせを解消できる場合
などが挙げられます。
※1 上下顎の前後的位置のズレが大きい場合でも、子供の場合は成長を利用して前後的なズレを軽減できることがあります。
※2 大人に比べて子供の場合は成長途中のため拡大できる量が大きいです。
歯並びのでこぼこの改善や、前歯の突出:出っ歯の改善を行うためには抜歯が必要になる場合があります。
でこぼこと前歯の突出の症状が組み合わさる場合もありますし、さらにその他の要因も重なる場合が多いため、それぞれの要因を考慮して抜歯するかしないかは検討します。
今回は前歯のでこぼこと前歯の突出がある場合「抜歯をした場合」と「抜歯をしない場合」ではどのように歯並びに違いが生じるかをご紹介したいと思います。
下写真では、上の前歯が前方に突出しています。レントゲンの分析結果では、上前歯平均よりやや大きく前方へ傾き、下の前歯の傾きは平均的でした。
上の真ん中の前歯(中切歯)2本は前方に飛び出ており、その脇の歯(側切歯)の傾きは前方へは飛び出ておらず、むしろ傾きは良い感じです。この脇の歯と同じくらいまで真ん中の前歯を後方へ倒してきれいに歯並びに入れたいのですが、そのためにはスペースが(5mm程度)足りません。
下の前歯の傾きは平均的で良いのですが、でこぼこが強く理想的な歯並びにするためにはやはりスペースがかなり(5mm以上)足りません。
仮に「抜歯をしないで並べた場合」と「抜歯をして並べた場合」ではどのような違いが出るでしょうか?
模型でシミュレーションを行ってみます。専門的にはこのように診断や治療計画を立てるためにシミュレーションする模型のことを「予測模型」あるいは「セットアップモデル」などといいます。
「抜歯をしない場合」でこぼこの重なりあった部分を解消しながら並べることになるため歯並びの外周はどうしても大きくなってしまいます。つまり前歯はさらに前方へ突出してしまいます。
前歯が出ていることを悩みに来院されたとしても、抜歯をしないで並べると前歯はさらに前に出てしまい、口元は突出してしまいます。
「抜歯をした場合」前歯より後ろにスペースができるため、前歯を後方へ移動して出っ歯を治すことはもちろん、歯並びのでこぼこを改善することが可能です。抜歯をした場合、上下とも前歯の傾きはとても良好です。スマイルも口元もきれいになります。
前歯の移動量がどのくらいか、歯を並べるためにどのくらいのスペースが必要かなど様々な情報がこの模型から得られます。
しかし決して抜歯をお勧めしているわけではありません。
抜歯をすることで、でこぼこを解消して他の歯や歯ぐきの健康を守ることができて、噛み合わせ、歯並び、口元、スマイルなどを改善できるならば、ひとつの有効な手段だと考えています。
もちろん抜歯をしない方が良いこともあります。
まずは精密検査を行い、「現在の状態を把握してどのような治療を行うか」を十分にご納得して頂いてから治療を開始するようにしております。「検査をしたからといって治療もしなければならない」と思われている方が多いのですが、決してそのようなことはありません。
治療計画にご理解が頂ければあとは素敵な笑顔になることを目指して一緒に頑張るのみです☆
いま治療されている方も一緒に頑張りましょうね。
矯正治療の抜歯について-①では、でこぼこ(叢生)の量により抜歯が必要になる場合がることをお話しました。
今回は前歯の前後的な傾きとの関わりについてです。すなわち前歯が前に出ているか後ろに引っ込んでいるかどうかということです。主に前歯が前に出ている場合が抜歯の必要性と関連します。
写真は上下の前歯が前へ出た上下顎前突という状態です。前歯が出ていることが気になり治療を希望されました。レントゲンの分析結果から、前歯の傾きは標準よりかなり前方へ傾いています。
ではこの前歯が前方へ突出した状態を改善するにはどうしたらよいでしょうか。
改善するためには前歯を後ろへ移動する必要があります。後ろへ移動するためには前歯よりも後ろにスペースが必要になります。前歯を後ろへ移動する量が多ければ、その分後ろにスペースが必要になるため抜歯が必要になる可能性が高くなります。前歯を後ろへ移動する量が少なければ、歯の幅を調整する(IPR)、あるいは奥歯を後方へ移動するなどの手段で抜歯をせずに治療できることも考えられます。
抜歯をするかしないかは前回のでこぼこ(叢生)の量、前歯の傾きだけでなく、他にも
・上下の顎の骨の大きさ・幅
・咬み合わせの高さ
・下顎の前後的な位置
・顔の長さ、横顔・口元の状態、スマイルの状態
・歯や歯ぐきの状態
・習癖(習癖に関する項目は行末へ)
・舌の位置(低位舌)
・鼻の疾患(口呼吸)
・治療期間
その他様々な要因を含めて検討します。
そのためにも矯正前には精密検査が必要です。これを元に現在の状態をよく把握して、あらゆる可能性を考えた上で治療計画を立てます。
抜歯するかしないかを矯正治療の目的にしてはいけません。あくまで抜歯はひとつの手段です。抜歯をしないで治療したとしても、咬み合わせが安定しなかったり、見た目がよくなかったり、口元や横顔の状態がよくなければ治療の意味がありません。
矯正治療の目的は、
・将来的に歯や歯ぐきの健康を保つことができる
・機能的な歯並び・噛み合わせを得ることができる
・顔や口元の状態を美しく
これらができる限り長期に安定する状態に向かって改善することです。
前回の記事にも書きましたが、まず最初は抜歯をしないで治療可能かを検討します。抜歯はあくまで最終手段です。何よりも最終的には素敵な笑顔になって頂くことを願って、検査も毎回の治療も行いたいと思っております。
歯並びを治すの際に歯を抜くこと(抜歯)が必要なのかということがしばしば問題に上がります。
最近では矯正治療もだいぶ経験された方が多くなってきて、そのお友達が相談に来られた際に「私の場合は抜歯が必要なのはしょうがないですよね」と患者さまの方からおっしゃられることも多くなりました。
しかし誰しも歯を抜かれることが好きなはずがありません。私自身だってそうですし、自分の子供を治療するにもできれば抜歯は避けたいと思います。
ですが抜歯が必要な場合もどうしても出てきます。ではなぜ抜歯が必要になるのでしょうか。無意味に歯を抜くことはないので必ず理由があるはずです。
まず歯並びにでこぼこ(叢生:そうせい)が生じている場合はどうでしょうか。
図1のAさんも、図2のBさんも上下にかなりでこぼこ(叢生)があります。Bさんは典型的な八重歯の状態です。
どちらも成人の方なので成長により顎の骨が大きくなることはありません。(成人の場合、矯正治療で歯並びの幅を装置で多少は拡大することは可能ですが、子供ほど大きく拡大できません)
つまり顎の大きさは変わらないということです。
たとえば、3人掛けのベンチがあるとします。ベンチの大きさは当然変わりません。そこに4人が腰かけます。もしくは3人だとしても太ったお相撲さん(=大きい歯)が3人腰かけます。どうなるでしょうか?あるいは3人が普通の体型であってもベンチが小さければ(=顎が小さければ)どうでしょうか?誰かが斜めに座るか、膝の上に乗るか、重なって座るか…いずれにしろでこぼこの状態で座るしかありません。ベンチの大きさ(歯槽基底部の大きさ=顎の大きさ)に対して座る人の太さあるいは人数(歯の大きさ)がぴったり当てはまらないとでこぼこ(叢生)が生じたり、すき間(空隙)が生じるわけです。
専門的にはこの不調和の状態をarch length discrepancy (アーチ・レングス・ディスクレパンシー)と言います。
この不調和の量、歯がぴったり並ぶために足りない量が5mm以上の場合、抜歯の対象になると一般的に言われています。
しかしながらこのでこぼこでぎゅうぎゅうの不調和の状態…あまり気分よくありませんよね。落ち着かないですし、座っている皆が疲れます。歯も同じです。汚れが溜まりやすくなりますし、虫歯や歯肉炎、歯周病の原因になります。また噛み合う歯との当たり方が良くなければその歯にダメージが生じてくることもあります。
ではどのように解消したらよいでしょうか。もうお気づきの方もいらっしゃると思います。
そうです。ベンチに座っている誰かに申し訳ないけどそこから抜けてもらう。つまり歯を抜いて不調和の状態を改善するわけです。できれば抜きたくないですが、抜くことで歯並び・噛み合わせを安定させること、長い目でみると他の歯の健康を守ることにもなります。
私の抜歯に対する治療の考え方、順序としては次のようになります。
①まずは抜かないで治療をできるか検討する。
②次に歯の大きさ・幅を調整(IPR)することで抜歯をしないで治療できるか検討する。
③奥歯を後ろに移動させスペースを確保できるか検討する。(矯正用のミニインプラントを使用するなどMEAWを使用した矯正治療を行う)
④上記を検討しても歯並びや噛み合わせが安定しない、口元の状態・横顔の状態が悪くなる場合に初めて抜歯を検討する。
このようにステップを踏んで最終手段として抜歯を検討しています。